続き

夕方、いぶきの森から持ち帰った茂造さんの秋・冬の衣類の整理をしていたら、一つフリースのジャケットが無いことに気づいた。
おかしいなぁ?たしかいぶきの森に持って行ったと思ってたんだけどなぁ。勘違いかな?
茂造さんちに残ってないか確認しに行った。
探してみたがどこにも無かった。
という事は施設で行方不明になったのだろうか?
どうしたものか。

ところでわたしがジャケットを探しに行くと、綿子さんは空マメを炊いていた。
IHの使い方は覚えていたようだ。
けれど相変わらず強火になっているので、鍋の中ではもの凄い勢いでマメが踊っていた。
綿子さんが入院した後、この台所も掃除、片づけをした。
だしの素や醤油は傷まないように冷蔵庫に入れていた。

「綿子さん、だしの素はここに入っとるからな。醤油もココやで」

冷蔵庫を開けて説明した。

綿「そうな。分かった」

そして昼間買ってきたビールが目に入ったようだ。

綿「今から飲もうかな」

と言いながら取り出した。
むちゃむちゃ元気やん!!
体調悪かったらビールなんか欲しくないだろう。
どこが死にそうなんだ?
やはりみどり整形の先生の話はもの凄くオーバーに言っていたとしか思えない。

綿子さんは炊きあがった豆をお皿に盛り

綿「今晩はこれとパン食べるんや。あ、コーヒーはどこかな?」

「ここやで」

今晩の夕飯はアンパン半分とアーモンドカステラ半分と空豆の炊いたのとコーヒーだそうだ。
たったそれだけ?
きゅうりやトマトは?
せっかく買ってきたのに。
綿子さんはこれで十分やと言った。

そこへ雨漏りを心配したかつおさんがやって来た。
雨足が強くなってきたので見に来たそうだ。
先日、雨漏りを見つけたが、忙しくてまだ修理できていない。
とりあえずバケツを置いておいた。

そして三人で茂造さんの話になった。

綿「じいさんが居ったら、あれせえ、これせえって用事ばっかり言われるし、文句ばっかり言うから帰って来たらまた色々言われるんかと思うて憂鬱やったんや」

「居らんで良かったやろが」

綿「おう。ホッとしたわ」

「しっこが出んようになったからのぉ。もう帰って来れんやろのぉ」

「でも、しっこが出んようになる前は、出過ぎて大変やったんや」

「そうや、おかんが入院して暫くしたらションベンを撒きもってトイレに行くようになっての」

綿「私が居った時からポタポタこぼしとったが。私、拭くばっかりせないかんかったんや」

「ポタポタみたいにかわいげなもんと違うて、ジャーーってしっこをしながら歩いとったんや。それでズボンや靴下までビショビショにしてな」

「ほんで、おねしょもするようになって、終いにオムツ履かせたんや。けど、起きとる時はトイレに行こうとするからあんまり意味なかったんやけど」

「それで少しでもトイレに近いようにベッドもここ(台所)に持って来て、かつおさんが泊まり込んでじいさんの世話しとったんやで」

綿「ほうな。世話になったなぁ」

「ほんま大変やったんや。夜中に何べんも起きてトイレに行くたびに汚すし、起きたらなんか食べるし、わし寝られんで弱ったわ。終いに転んで頭打って、それから急に食欲が無くなったから佐藤病院に連れて行ったんや。そしたら肺炎起こしかけとるからってショートステイに入って、3日で帰ってくる予定が、急にしっこが出んようになったからそのまま入所になったんや」

綿「ほうか」

「おかんもじいさんが居らんから気が楽になったやろ」

綿「そや」

茂造さんの入所のいきさつをかいつまんで話したが、綿子さんが茂造さんを心配する様子は1ミリも無かった。
淋しいことだ。
にんげんっていいな


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