今日の宿は『有馬温泉 銀水荘 兆楽』だ。
ここは典さんが予約してくれたのだが、とても高級感のあるいいお宿だった。
かなり奮発してくれたようだ。

今回、旅行をするにあたって温泉に泊まるのなら、貸切風呂がある宿にして欲しいと要望を出した。
よくふらつく綿子さんをわたし一人で大浴場や露天風呂に連れて行く自信が無い。
もし転んだりしたら大変だ。
けれどせっかく温泉に来て、部屋の内風呂にしか入れないのでは綿子さんが気の毒だ。
なので貸切風呂なら狭いだろうし、かつおさんにも一緒に介助してもらったら安心だと思ったからだ。

ここはチェックイン時に貸切風呂を申し込むシステムだった。
先着順だ。
夕食より前の時間がとれたのでよかった。
そして「何名様ご利用されますか?」と質問を受けた。
典さんも貸切風呂に興味があるようだったので「とりあえず4名です」と答えた。
さすがにわたしと典さんとは一緒に入れない。
途中で交代しよう。

そして部屋へ案内してもらった。
「予約していただいた部屋より広いお部屋にグレードアップしておきました」とフロントの方がおっしゃっていたとおり、とても広い部屋だった。
10畳以上はある和室とその横に4畳半くらいの一人掛けのソファが4つとテーブルがある部屋と、もうひとつ4畳半ほどの部屋があった。
そしてメインの和室にはテーブルと椅子を用意してくれていた。
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高齢者がいるからだろう。
とても気が利いている。
そして浴衣と一緒に作務衣が用意されていた。
どちらでもお好きな方をお使いくださいとの事だ。
そりゃあ作務衣一択だ。
浴衣だとトイレで困るだろうと綿子さんにはパジャマも持参していたのだが不要だった。
さすが高級旅館だ。

しばらく部屋からの眺めを楽しんだり、お茶を飲んでくつろいでいたら貸切風呂の予約時間が近づいて来た。
先に作務衣に着替えてお風呂に行こう。
作務衣を着てみて気付いたのだが、胸元の合わせのところにボタンが一つ付いていた。
このボタンを留めれば胸元がはだけなくていい。
細かい気づかいに感心した。
綿子さんにも「ここにボタンがあるから留めるとええよ」と教えてあげると「ほんま。これええなあ」と感心していた。

そして4人で貸切風呂に向かった。
典さんとは「わたしが先に入って、綿子さんの髪や体を洗ったらすぐ出るから、交代しよう」打ち合わせた。
貸切風呂は旅館を出て少し階段を登ったところにあった。
金泉と銀泉、二つの浴槽があり、半露天で景色もすてきな最高のお風呂だった。
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中をざっと見学したら典さんには部屋に戻っていてもらった。
さあ、さっさと入らないと貸切時間は40分間しかない。
しかし入ってから気付いたのだが、シャンプーもボディソープも何も無い。
あとで館内案内をよく見ると貸切風呂ではシャンプーや石鹸はお使いいただけませんとの事だった。
掛け湯して湯舟に浸かるだけしかできなかったのだ。
だから40分で十分なのね。

「綿子さん、ここシャンプーも石鹸も無いから洗えんみたいや。後で部屋のお風呂で洗ってあげるわな」

綿「いや、昨日洗っとるからええわ」

ということでゆっくり湯舟に浸かって温泉を楽しむこととなった。
これならわたしは特に用はない。
金泉に5分、銀泉に5分浸かるとさっさと出た。
典さんと交代だ。
早々に交代し、親子3人水入らずで貸切風呂を満喫してもらった。
綿子さんも息子二人と温泉に入るなんて思っても無かっただろう。
とても喜んでくれた。
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その後、わたしは大浴場へ行き、一人でしっかり温泉を満喫した。
かつおさんと典さんも大浴場へ行った。
そしてお風呂から戻って来た二人は作務衣の前をはだけていた。
すると綿子さんが
「典夫、ここにボタンがあるんやぞ」
と、さっきわたしが教えてあげたボタンの事を言い出した。
典さんは分かっているはずだ。
けど男の人ははだけてたって気にしないだろうし、今は風呂上がりで暑いからわざと留めてないのだと思う。
典さんがボタンを留めようとしないのを見て、綿子さんは典さんのそばへ行き、「ここやが」とボタンを留めてあげた。
いつまでたっても子ども扱いだ。
しかし、隣でもっとはだけているかつおさんには何も言わないし、ボタンを留めてやろうともしない。
この差は何なん?
やっぱり長男は可愛いのかな?
相変わらず憐れなかつおさんだった。
もっとも綿子さんがもしかつおさんのボタンを留めようとしたら
「やめてくれ!暑いから開けとんや!要らんでええ事するな!」と言っただろう。
綿子さんもそれが本能で分かっていたのかな?


続く

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