昨日の続き

綿子さんの入院用品を集め、お昼ご飯の準備をしているとハルちゃんと数くんが来てくれた。
もう11時が迫っていた。
そこで茂造さんの迎えはハルちゃん達にお願いし、わたしはお昼の準備を続けることにした。
ご飯は炊飯器ごと綿子さんちの台所へ運ぶ。
粕汁の入ったお鍋も、カワハギの煮付けが入ったフライパンもそのまま運んだ。
その方が温めやすくていい。
けど一度に運べないので何度も往復した。
食器は綿子さんちの物を使うことにしたのだが、一度洗い直さないといけない。
綿子さんや茂造さんが使うだけなら洗い直さなくてもいいが、ハルちゃん達が使う分には洗い直さないと、気持ち悪くて使えない。
茶椀や汁椀、小皿やお箸など探していたら茂造さんが帰って来た。
なんとか綿子さんの入院手続きも終わったそうでかつおさんも一緒に帰って来た。
茂造さんは早速「腹が減ったが-」と言っている。
椅子に座らせ、急いで食器を洗った。
そしてとりあえず茂造さんにお昼ご飯を出した。
すると「みんな揃うまで待つわ」と言った。
そんな常識人のようなことを言うなんて!
ビックリした。
今までそんなことを言ったことも、待ったこともないのに。
施設の暮らしで出来るようになったのだろうか。
が、そうは言ったものの30秒後には勝手に食べ始めていた。
やっぱりかよ。
茂造さんはカワハギの煮付けが気に入ったようで一心不乱に食べていた。
が、その様子を見て後悔した。
骨を外してあげればよかった。
のどに骨が刺さったら大変だ。
きっと施設では骨のないものしか出なかっただろう。
骨のある魚を食べるのは久しぶりな気がする。
急いでかつおさんに身をほぐしてあげてと頼んだ。
幸い骨が刺さったりはしなかったのでホッとした。

茂造さんは煮魚や粕汁を残すことなくしっかり食べた。
「あ~旨かった~。腹がいっぱいや~」
満足そうだった。
良かった~。
喜んでくれてなによりだ。

そして食事が終わるとまた他人の名前が気になり始めたようだ。

「お前は秀夫か?」

「かつおや」

「あんたは誰な?」

「好子や」

「・・・・・。分からんが~」

そしてハルちゃんに向かって

「うめちゃんか?」

「チョコやで」

ハルちゃんは前回と同じトレーナーを着ていた。
が、茂造さんはちんぷんかんな顔をしている。
そりゃ前回のことを覚えているわけがない。

「ハルちゃんや」

「おお、ハルちゃんか!」

そして数くんに向かって

「お宅は誰かな?」

「ハルちゃんの夫です」

「お~ハルちゃんの旦那か!」

「あんた誰かな?」

「ハルや!」

また前回同様のループが始まった。
しかし一度も「綿子は?」とは言わない。
茂造さんの口から出てくるのは「秀夫」「うめちゃん」「為五郎」「フネ」だけだ。
やはり子供の頃の記憶が一番強く残っているのだろうか。
「かつお」どころか「綿子」も出てこないとは。
ちょっと悲しい。

続く
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