昨日の続き

前置きが長くなったが、今日はこの一つ身を綿子さんに見せてあげようと持参したのだ。

今日はかつおさんとハルちゃんとゆうくんと4人で面会に行った。
4時頃なら入浴も終わっているだろう。
思った通り1階のホールはもう誰もいなかった。
4階へ上がると綿子さんはデイルームにいた。
わたし達に気づくとすくっと立ってシルバーカーを押しながらスタスタと近づいて来た。

「えっ?歩行器ちゃうやん!シルバーカーに戻っとるやん!」

あっそうか、先週は翔ちゃんと来たからハルちゃんは知らなかったのね。

「先週から換わったんや」

「スタスタ歩いとるやん。やっぱ不死身やな」

「さすがやろ」

みんなで部屋へ移動したのだが相部屋の方がベッドで寝ていたので廊下の突きあたりのベンチがある場所に移動した。

まずはゆうくんから。

綿「来てくれたんか~」

やはりゆうくんを連れてくるのが一番喜ぶ。
抱かせてあげると「また重んなったなぁ」と目を丸くする。
そして次は押し寿司だ。

「今日はお祭りなんや。だからお寿司持って来たで」

「ばあちゃんの実家の近くの産直のやで」

綿「うわ~~。嬉しいわ~。ここではこんなんは食べれんから~」

お箸を出したりお茶を汲んだりと準備をしていると

綿「かつお、花は用意したんか?」

「ちゃんと用意しとるから大丈夫や」

綿「ほうか」

祭りと聞くと花代のことが気になったようだ。
こういう所はまだまだしっかりしている。

「今年は喪中の家がようけあってのぉ」

綿「そうなんか」

「〇〇さんと✕✕さんと△△さんと・・・」

綿「えっ✕✕さんも亡くなったんか?」

「おう」

綿「ほうか~。香典は・・・」

「ちゃんとしとるから大丈夫や」

やはりお金のことが気になるようだ。

綿子さんがいぶきの森に入所して8カ月。
その間に同じ地区で4人も亡くなった。
みんな茂&綿より若い人ばかりだ。
そう考えるとやっぱりこの二人はすごいなぁと思う。
ほんと体は丈夫だ。
田んぼで鍛えていたからか?

押し寿司を食べ始めた綿子さんは「美味しいわ~」と喜んでくれたのだがほんの2口ほど食べると箸が止まった。

綿「これ置いといて明日食べるわ」

またかよ!

「それはイカン!」

「お腹空いてないん?」

今、4時過ぎだ。
お腹は空いているはずだが。

綿「いや、お腹は空いとるんやけど、これ美味しいから明日の楽しみに取っときたいんや」

「だからそれはダメなんやって」

また食べ始めたのだが半分ほど食べるとまた箸が止まる。

綿「これだけ置いとくわ。明日の朝食べるからナイロン袋に入れとくわ」

「ナイロン袋やないわ」

綿「そこに見えよるが」

なんと目ざとい。
お寿司や割りばしなど入れてきたバッグからナイロン袋が少し見えていた。

「これは紙コップが入っとるんや。じいさんにも同じもん持って行くから」

綿「そしたら部屋に行って取ってくるわ」

どうしても置いておくつもりだ。
しゃあないなぁ。

「そしたらこのまま置いて帰るわ。明日忘れんと食べなよ」

入れてきたタッパーのまま置いて帰ることにした。
お寿司なので明日の朝なら傷むこともないだろう。
それに食べかけの物なので他人にあげたりもしないだろうと考えてのことだ。
けどもう食べ物を持って行くのは止めようかしら。
このやり取りがストレスだ。
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